カントの道徳法則

アンチノミーとは、相反する命題のペアーである。このペアのうち肯定的命題(である)をテーゼといい、否定的命題(でない)をアンチテーゼという。例えば、Aは信用できるというテーゼとAは信用できないというアンチテーゼのペアをアンチノミーという。カントは、このアンチノミーが同時に正しく成立してしまう事態を指摘し、人間の合理的認識能力の限界を証明した。

ここでは、自由に関するカントの第三アンチノミーを紹介する。第三アンチノミーは、

テーゼ自然法則による因果性だけでなく、事由による因果性もある
と、
アンチテーゼ自由は存在せず、すべてが自然法則による
からなる。
前者は人間の意思の自由を認めるが、後者はそれを認めない。したがって、前者の考え方では殺人犯に責任を問えるが、後者の考え方では殺人犯に責任を問えない。意思の自由がないのならば、何をやっても人間の責任ではないからである。ここで自由とは、「自らによる」こと、すなわち、自然法則などを根本原因とすることないことや自律を意味する。


義務とは「何々すべし」あるいは「何々することなかれ」
であらわされる内容であり、命令文の形式をとるものである。
命法とは道徳における命令文の方式


仮言命法とは条件つきの命法である。例えば、「もし人に信用されたければ、正直になれ」という命法である。これには2つの問題点がある。1つめは、2つめは、うそをつかないことよりも、信用されることが目的であって、これは単なる自愛、エゴイズムの原理にすぎないということである。
定言命法とは無条件の命法である。例えば、「人に信用されようとされなかろうと、正直になれ」というものである。カントは仮言命法を偽の道徳とし、定言命法を真の道徳とした。