一般意志2.0(1章)

東浩紀が語る未来社会についての夢はルソーの社会契約論と情報技術革命が交差する点で成立している。


まずはルソーの文脈、いわゆる「ジャンジャックルソー問題」について見ていくことにしよう。これは、ルソーが2つの矛盾する顔を持っているという問題、極端な個人主義者としての顔と極端な全体主義者としての顔の2つの顔を持っているという問題である。


ルソーは一方で個人の自由、感情の無制約な発露を賞揚する。『新エロイーズ』においてルソーは近代的恋愛を描き、悟性に対して感情、社会に対して個人、権力に対して自由の価値を訴える。


しかしながら、ルソーは『社会契約論』において、個人(特殊意志)の全体(一般意志)への絶対服従を強調しているように見える。「構成員は自分の持つ全ての権利とともに自分を共同体全体に完全に譲渡」などの文からそれは読み取れるだろう。


この矛盾が何を意味しているかについては後に見ていくとして、まずはもうひとつの文脈、「情報技術革命」について触れておこう。ここで鍵となる概念は「集合知」である。集合知は、「みんなで集まって考えるとひとりでは生み出せなかったうまい回答がでてくることがある」というイメージで捉えるとよい。


確かに、この認識そのものは決して新しいものではない。しかし、集合知の新しいところはその意見の集約が情報技術に支えられている点にある。情報技術の革新は、集約出来る意見の数を飛躍的に増やし、また、集約のメカニズムも急速に洗練させてきたのである。


この集合知を支える定理は2つある。ひとつは「多様性予測定理」である。これは、「構成員個人の予測の多様性が増せば増すほど群衆の予測が正確になるということである。もうひとつは、「群集は平均を超える法則」である。これは群集の予測が構成員の平均的な予測よりも必ず正確になることを証明するものである。


この集合知への着目が、「ジャンジャックルソー問題」に新しい視角をもたらすのである。